木でロードバイクを作るわけ

木製ロードバイクの存在を知っている人が少しずつ増えてきましたが、まだ一般には認知度が低いです。専門誌などを見ると「ロードバイクの素材はカーボン、クロモリ、アルミ、チタンだ」と書かれているので、まさか木で?と驚く人も多いのではないかと思います。

引っ張り・圧縮・曲げの強度を比較したり、降伏点(曲がったら元に戻らない点や折れてしまう点)を比較したり、温度や湿度の影響、疲労の蓄積なども考慮して材料は選ばれます。

例えば比強度(重さを揃えたときの引っ張り強度)を見ると、木は鉄の4倍、チタン合金の2倍です。比弾性(重さを揃えたときの曲げ強度)についても木は優れています。

木の繊維はハニカム構造になっていて、空洞が多い(故に軽い)にも関わらず強いのです。

湿度による変化は金属やカーボン繊維に比べると大きいので湿度対策は重要ですが、温度に対する変化は小さいです。また、金属のように疲労を蓄積しないのも優れた特性です。

木のフレームに対して「木で大丈夫?」「チタンの方がいいでしょ?」という反応が少なくないですが、前述したことを知っていてもそう思うのでしょうか?思い込みや偏見ではないでしょうか?金属やコンクリートで作ったら法隆寺は成り立たないだろうし、160km/hの豪速球を180km/hの速度で撃ち返すバットの強さは相当なものです。

降伏点に達しない範囲で設計され、繊維を断ち切らないようにうまく使えば、木で作られた構造物は引っ張り・圧縮・曲げに対する優れた強度的特性があり、反発力もとても強いのです。

プロ選手が競技で使用するのは剛性の高いフレームです。ちょっと乗った程度なら軽くて反応の良い自転車に感じるかもしれませんが、普通の人が長い距離を走ったり、年中あちらこちらに出かけて距離を稼ぐような使い方をするのに向いているでしょうか?

元々、長距離を走るのが好きで1日に500kmほどを走った経験と、もしかすると1日に600kmくらいは走れるのではないかと思った好奇心から、快適にいいペースで長い距離を走る道具として木という素材は、前述の木の特性を考えると魅力的だと思いました。これが木製フレームを作ろうと思った動機です。

プロ選手が使うものと同じものを所有したいというのは分かります。フォーミュラーカーを自家用車にすることは難しいですが、ロードバイクならそういうことができるのです。たとえ使う人の実力に相応しくないとしても、持っているだけで嬉しい、眺めながら飲む酒が旨いなんていうこともあるでしょうから、決して無用の長物ではないでしょう。

普通の人が日に長距離を走るときに乗り手の力を補完してくれ、街中も快適に乗り回して遊べる。限られた休日の時間に仕事の疲れを取ってくれる気持ち良さがある。そんなロードバイクを作るのが目標で、そのための木です。

難しい部分もありますが、そういうことは技術で克服する喜びがあります。作って面白く乗って楽しい。多少の所有感も満たしてくれたら更に良い。

偏見や先入観はなかなかなくならないでしょうが、目的と目標を定めて進みます。
「乗ってみればわかる木の良さ!」なんて言えるように頑張ります。

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