モノづくり塾「ZIKUU」だより – 令和7年11月
令和7年11月の活動報告です。
上野原の朝晩はすっかり冷え込むようになり、ストーブやこたつが出番を迎えました。外は寒くても、工房の中では相変わらず塾生たちの手と頭がよく動いています。今月も、木工旋盤や箱づくりといった実際の作業と、AIや情報インフラづくりといった「目に見えにくい土台づくり」が並行して進んだ一ヶ月でした。今月はだいぶZIKUUの輪郭が見えてきた月でもありました。
木工旋盤体験教室と箱づくり
11月前半は、木工旋盤体験教室からスタートしました。千葉や茨城といった遠方からも参加があり、椀づくりに取り組みました。最初は道具の持ち方に戸惑っていた方も、少しずつ刃物の当て方に慣れてくると、削り肌や形が目に見えて良くなっていきます。
夜の時間帯には、塾生たちが箱づくりを通じて板接ぎや留め組み、底板用の溝加工などの練習を続けました。クリスマスに向けた工作という具体的なゴールがあるおかげで、「ただの練習」ではない、ちょっと背筋が伸びる作業になっています。



治具づくりと工房の環境整備
工房の設備面では、ベンチバイスの取り付けやテーブルソー用治具の改良など、地味ながら効き目の大きい整備を進めました。治具を一つ工夫するだけで、同じ精度の加工を安全に、何度でも再現できるようになります。
塾では、こうした「道具のための道具」を自分たちで工夫して作ることも大切な学びだと考えています。便利な既製品を買って終わり、ではなく、「どうすれば作業が安定するか」「どこを改善すると安全になるか」を自分の頭で考え、手を動かして確かめていくことが、結局は大きな力になります。

FruitChainプロトタイプと電動工具の手入れ
今月は、電動工具の掃除やメンテナンスと並行して、成果物ベース通貨「FruitChain」のプロトタイプ開発も進めました。FruitChainは軽いブロックチェーンとAIを組み合わせて、労働と共同体への貢献を評価して仮想通貨を作る仕組みです。どちらも「見えないところの手入れ」という点でよく似ています。
道具の手入れを怠ると、ある日突然、肝心な場面で動かなくなります。お金や情報の流れも同じで、仕組みのほころびはすぐには表に出ませんが、気づいたときには取り返しがつかないことになりがちです。塾としては、小さなスケールからでも、自分たちで仕組みを設計し、運用していく練習の場をつくっていきます。

Vibe PlaygroundやWhisper PlaygroundとAI塾長の準備
AIまわりでは、「場の雰囲気(Vibe)」を扱うためのツールである Vibe Playground のチューニングを続けました。センサーやテキストの情報から「場の空気」をモデル化し、そのイメージを画像生成や文章に反映させる試みです。いずれAI塾長が場の雰囲気を理解して動くようになります。まだ実験段階ですが、今後のワークショップづくりや教材づくりにも生かしていきたいと考えています。

さらにWhisper Playgroundを開発。これはAIを使ったYouTube動画の文字起こしアプリで、なかなかの精度で文字起こしをしてくれます。世相やニュース、技術情報をAI塾長の知に流し込むための入口の一つになります。

同時に、将来的にZIKUUで稼働させる「AI塾長」のための準備も進めました。人間側の思考の癖や価値観をどうやってAIに伝えるか、その切り分けを整理しながら、少しずつデータセットと仕組みを整えています。クラウド任せではなく、自分たちの手元に置けるAI環境をどう作るかも、引き続き大きなテーマです。

ZIKUU Research Libraryと「週末科学者」
ZIKUU Research Library(ZRL)の運用も、だいぶ形が見えてきました。塾長や塾生が気になった論文や技術資料を読み、要点をまとめ、Discordなどで共有することで、「週末科学者」としての活動を後押しする仕組みです。外の知を共同体の中の知に取り込む仕組みと言えるでしょう。

難しそうな論文でも、一人で抱え込まず、みんなで少しずつ読み解いていけば、それぞれの専門や興味と結びついたときに大きな力になります。モノづくりの現場と、学術的な知識をつなぐ橋として、ZRLを育てていきます。いずれAI塾長が、これを利用します。
小説
ZIKUUは文明・文化全般を扱い「作る」という行為から学ぶという基本があります。なので木工や金属加工だけではなく、絵を描いたり、音楽を作ったりもします。この月は本気で小説をいくつか書きました。これもAI塾長が、情緒表現を学ぶデータとして利用されることになります。


月例カレーの会
恒例の「カレーの会」は、今月も少人数でじっくりと開催しました。参加人数が多いときは賑やかで楽しい時間になりますが、人数が少ないときは少ないなりに、腰を据えて話ができる良さがあります。

モノづくりの相談や将来の話、地域のこと、社会のこと。道具を握っているときとはまた違う形で、互いの考えや悩みをゆっくり共有できるのが、この会の一番の価値かもしれません。どなたでも無料で参加できます。
おわりに
11月は、木工旋盤や箱づくりといった手の作業と、AIや情報インフラのような目に見えにくい基盤づくりが、いつも通り同じテーブルの上に並んだ一ヶ月でした。ブログ「塾長の独り言」では、こうした活動に加えて、社会の仕組みやニュースとの付き合い方についてのエッセイも引き続き更新しています。興味のある方は、あわせてそちらもご覧ください。
見学や体験教室への参加も歓迎しています。開塾日やイベントの予定は、公式サイトやDiscordコミュニティでご案内していますので、関心を持ってくださった方はお気軽にお問い合わせください。
ZIKUUはこんな場所
ZIKUUは、いわゆる「習い事教室」とも、「工場」とも少し違う場所です。
削りかすや木の粉が床に落ちていて、壁には試作品や製品が並び、3Dプリンターやレーザー彫刻機が静かに動き、奥の部屋では誰かがパソコンに向かってコードを書いている。そんな風景が同時に存在しています。共同体基盤+IT基盤+モノづくり設備+教育システムが積層した空間と言えます。
ここでは、「下手でもいいからまずやってみる」「わからないことは一緒に調べる」が当たり前です。きれいな完成品だけが評価されるのではなく、段取りの工夫や、失敗から学んだメモ、小さな改善案も、同じように大切に扱い、老若男女が協力して生きる場所になっています。
通っている人たちは、年齢も背景もさまざまです。モノづくりを仕事にしたい人、今の仕事を続けながら副業のタネを育てたい人、地域でなにか始めたい人、純粋に手を動かすのが好きな人──共通しているのは、「自分の足で立つ力をつけたい」という静かな意志です。
派手なイベントや、大きな看板はありません。そのかわり、同じ場所に何度も通って、少しずつ手応えを重ねていけるだけの道具と時間があります。ZIKUUは、そんな「長く通える秘密基地」のような場所でありたいと思っています。