― 10年前の自分へのメッセージ ―
便利さが暮らしを豊かにするとは限らない。
手を動かし、頭を使い、仲間と支え合うことでこそ、
人は生きる実感を取り戻す。
序文
10年前、私は登呂の遺跡を訪ね、弥生人の暮らしを見て驚いた。
自分が使うものを自分の手で作り、衣食住すべてを自らの技で支えていた人々。
その姿に、文明の発展と引き換えに失った「生きる力」を感じた。
今、そのときに自分が書いた文章を読んでいる。
あれから10年。
私はZIKUUを立ち上げ、木工や電子工作、AIの研究、教育の試みを続けてきた。
それらはすべて、当時感じた「全人的な生き方」への回帰だったのだと思う。
今読み返すと、あの頃の私はまだ道半ばで、「どうやってそれを実現するか」を模索していた。
それでも、この文章には、いまの私が活動を続ける理由がすでにすべて書かれていたように思う。「想いは叶う」のかもしれないと感じている。
本文
【10年前の私】
やっぱり自分が使うものは自分が、あるいは近くの数人が協力して全部作って生きた時代の人は凄い。
【いまの私】
本当にそうだ。
その凄さは、便利な時代に生きる私たちがどれほどの技術を持っていても、到底たどり着けない「生きる知恵」だ。
自らの暮らしを、自らの手で形づくるという覚悟。
それは効率とは別の、人間の誇りに近い。
【10年前の私】
農具を作り、田畑を耕し、住居を建て、衣類や食器を作り、食事を作って食べ、楽器を作って楽しむ。全部自分でやる。
全人的な能力を高めることで暮らしを良くするという考え方です。
【いまの私】
この「全人的な能力」という言葉を、私は今も大切にしている。
それは「一人で全部やる」ことではなく、一つひとつの技に対して理解と敬意を持ち、互いに補い合いながら生きること。
ZIKUUの塾生たちと手を動かすとき、私はこの原点をいつも思い出す。
【10年前の私】
近代は工業の発達で個人で作れないものも増えました。
最新のコンピューターの部品なんか作れないもんね。
【いまの私】
だからこそ、私は「できる範囲でつくる」ことの価値を再確認した。
小さなサーバーを自分で組み、AIをローカルで動かし、手に届く技術を自分の領域に引き戻す。
その実験が、ZIKUUの基礎になった。
【10年前の私】
ある程度の人が協力すれば自動車や自転車くらいは作れますから、思い切って作れないものを当面諦めることができれば、自産自消は実現するかもしれない。
諦めるものが多過ぎると、みすぼらしい暮らしになる。そうなると賛同者は増えない。
【いまの私】
この「諦め方」は、いまでも大事な課題だ。
何を諦め、何を手放さないか。
便利さと誇りの境界を見極めながら、人の手で回る社会を再構築すること。
それが、現代の“自産自消”だと思う。
【10年前の私】
全人的な能力を高める方向に行きませんか?
目指せスーパーゼネラリスト!
目指せスーパー生産者!
【いまの私】
この呼びかけには、今でも胸が熱くなる。
私はいま、ZIKUUの仲間たちと一緒にこの道を歩いている。
スーパーゼネラリストとは、何でもできる人ではなく、どんな分野の人とも手を取り合える人。
それを体現できる人たちが、少しずつ増えている。
【10年前の私】
数年になるかもしれないけど、ネットワーク作りを始めようと思います。
同じ志の人もいるはず。
【いまの私】
10年経った今、そのネットワークは確かに形になりつつある。
ZIKUUという場がその一端を担い、全国に点在する「手で考える人」たちが
少しずつつながっていく実感がある。
あの頃の思いは、今も続いている。
原文(2015年の私)
この間、登呂の弥生時代の遺跡を見てきて思ったけど、やっぱり自分が使うものは自分が、あるいは近くの数人が協力して全部作って生きた時代の人は凄い。
農具を作り、田畑を耕し、住居を建て、衣類や食器を作り、食事を作って食べ、楽器を作って楽しむ。全部自分でやる。
全人的な能力を高めることで暮らしを良くするという考え方です。鎌倉時代までは商店というものもなかったし、GDPのような概念もないんです。自産自消の暮らし。農業で稼ぐとか林業で稼ぐという概念もない。
職業という概念だって、たかだか1300年くらいの歴史しかない。近代は工業の発達で個人で作れないものも増えました。最新のコンピューターの部品なんか作れないもんね。
ある程度の人が協力すれば自動車や自転車くらいは作れますから、思い切って作れないものを当面諦めることができれば、自産自消は実現するかもしれない。
諦めるものが多過ぎると、みすぼらしい暮らしになる。そうなると賛同者は増えない。縄文時代の遺跡で200人くらいを収容する建物の跡が見つかったという話がありますけど、あなたは作れますか?
全人的な能力を高める方向に行きませんか?
目指せスーパーゼネラリスト!
目指せスーパー生産者!GDPが増えたって嬉しくないのは、もうみんなわかってるでしょ?
数年になるかもしれないけど、ネットワーク作りを始めようと思います。
完全自産自消に向かうには、その移行期間をどう生き延びるかが鍵だけれど、今やってる木工で一人前になることと、用地を手に入れること。そこまで行けばやれるように思います。
同じ志の人もいるはず。