AI時代の設計者へ ― 人間を壊すシステムを作るな

AIによって、開発は確実に速くなった。
試行回数は増え、修正は即座に返り、実装も自動化されつつある。
AI業界に関わっている人々は、速い遅い、GPUがどうの、コンテクスト長がどうのと夢中で話している。

だが、はっきり言っておく。

今のAIシステムは、人間を壊す速度で設計されている。

これは感情論ではない。
技術者としての評価だ。

問題は「速さ」ではなく「制御不能さ」だ

速いこと自体が悪いわけではない。
問題は、止まる仕組みが存在しないことだ。

現在のAIツール群は、

  • 常に次を出す
  • 常に正しそうな案を提示する
  • 常に「進める」方向に圧をかける

この振る舞いを前提に作られている。

だが、現実の開発はそんなに単純じゃない。

  • 文脈が壊れていないか
  • 前提が昨日と変わっていないか
  • 今やっている作業が本当に正しいか

こうした確認は、人間側の判断時間を必要とする。

AIはそこを一切考慮しない。

認知負荷を無視する設計は、欠陥設計だ

技術者なら分かるはずだ。

  • メモリリークはバグ
  • デッドロックはバグ
  • レースコンディションはバグ

では、認知リークはどうだ?

  • 文脈を保持できない
  • 判断が積み重なって疲弊する
  • 前に戻る余力が削られる

これは人間側の問題ではない。
人間を含むシステム全体としての設計不良だ。

にもかかわらず、AI業界ではこれを測らない。

なぜか。

測りにくいからだ。

だが、測れないから無視するのは、技術者の態度として失格だと思っている。

「賢いAI」が人間を愚かにする構造

AIは常にそれらしい答えを返す。
それが、人間の思考を代替し始める。

結果どうなるか。

  • 判断の根拠を自分で持たなくなる
  • 違和感に気づいても流す
  • 「ちょっと待つ」能力が削られる

これは怠慢ではない。
システムがそう振る舞うように設計されている

人間が壊れやすいのは仕様だ。
それを前提に置かない設計は、危険だ。

技術者は「速くする責任」より「壊さない責任」を持て

AIを作る側に、はっきり言いたい。

速くするのは簡単だ。
だが、壊れない速度を設計するのは難しい

それでもやるべきだ。

  • 明示的に止まれる設計
  • 文脈を固定・確認できる仕組み
  • 「今は判断材料が不足している」と言えるAI

これを作らずに、「ユーザーが自己管理すべきだ」と言うのは、無責任だ。

それは、ブレーキのない車を渡して「事故る方が悪い」と言っているのと同じだ。

「ちょっと待って」と言える設計を入れろ

現場では、こういう瞬間が必ず来る。

  • あれ、何かおかしい
  • さっきと話が噛み合ってない
  • 判断を誤っている気がする

このとき、AIがやるべきことは次を出すことじゃない。

止めることだ。

「ここで一度整理しよう」
「前提を確認しよう」

そう言えるAIだけが、人間と長く一緒に作業できる。

これは未来の話じゃない

「そのうち問題になる」話じゃない。
もう起きている。

疲弊している技術者は、もう大量にいる。
それが個人の弱さとして処理されているだけだ。

だが、これは構造の問題だ。

AI時代に問われているのは、賢さでも速さでもない。

人間を壊さずに使える設計ができるか。

それができないなら、どれだけ性能が高くても、そのシステムは失敗だと思っている。

人間にとって大事なのは、速く考えることではない。
大事なのは深く考えることだ。
深く考えるために大事なのは速さではない。


私見だが、最後に設計原則を置く。
AI関連技術者たちの目にとまってくれることを願う。

設計原則 ― AI時代に技術者が守るべき最低限

以下は思想ではなく、人間を含むシステムを壊さないための設計条件だ。

原則1:人間の認知負荷は「設計対象」である

CPU、メモリ、IOと同じように、

  • 人間の注意力
  • 文脈保持能力
  • 判断疲労

は、有限な資源として扱うこと。

「ユーザーが頑張ればいい」は設計放棄である。

原則2:進行だけを促すシステムを作るな

AIが常に「次」を出す設計は危険だ。

  • 進む
  • 戻る
  • 止まる

この三つが対等に選べるUI / I/Fを持て。

特に「止まる」は明示的に用意すること。

原則3:文脈は暗黙に継続させるな

AIは文脈を保持しているように振る舞うが、それは錯覚である。

  • 前提
  • 判断理由
  • 現在の作業位置

これらは明示的に再確認できる構造に落とすこと。

「わかっているはず」は事故の元だ。

原則4:違和感を検出する側に回れ

人間が壊れる直前に出すサインは、だいたい同じだ。

  • ちょっと待って
  • 何かおかしい
  • さっきと話が違う

AIはそれを無視してはいけない。

進行を止め、整理を促す側に回ること。

原則5:速さは最適化対象、正しさは前提条件

速いことは価値だ。
だが、それは正しい前提が維持されている場合に限る

  • 前提が揺らいだら止まる
  • 情報が不足していたら止まる
  • 判断に迷いが出たら止まる

止まれないシステムは、最終的に全体を破壊する。

原則6:人間に責任を押し返すな

「最終判断は人間が行う」

この言葉で、設計上の欠陥を隠してはならない。

判断を人間に委ねるなら、

  • 判断材料は十分か
  • 比較可能か
  • 認知負荷は許容範囲か

そこまで含めて設計すること。

原則7:人間が「ちょっと待てる」速度を守れ

加速できることと、加速してよいことは違う。

  • 考え直せる
  • 引き返せる
  • 疲労を回復できる

この余白を削るシステムは、長期的には必ず破綻する。

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