先月末に完成した立ち木を伐採し製材と自然乾燥を行ってから作った木製ロードバイクです。これは林業の下流、製材業、製造業という3つの業を合わせた「合業」で以前から提唱していた考えです。仕事が面白いと感じる機会を作り、サプライチェーンの短縮を図り、地産地消を試みようという提案です。
木で何かを作るということは共通していて使用する道具が似通っていても、家を作る大工さんとロードバイクを作る人では求められる知識や技術が異なりますから、なかなか何でもやるというのは難しいものです。ですから他業種の仕事もやる「合業」はもっと難しく挑戦しがいがあります。失敗も多いですがその分学ぶ機会も多いので、好奇心があれば忙しくても楽しいです。
試験走行をしてこの写真を撮った直後にシートポストが壊れました。サドル取付部の強度不足でした。
急いで対策品を作っています。
下は成形が終わったシートポストに布着せ(生漆と米粉を練った米糊で麻布を貼って強度を出す技法)をしました。
この後、研磨して布の継ぎ目を消し、錆つけ(生漆と砥の粉を練ったパテのようなものを塗り込む技法で塗装面を平滑にするのを目的とした作業)を行い、それが硬化後に研磨を行って漆塗りをします。
こんなもの一つ作るのにも手間と時間がかかります。今回のように失敗をしてやり直すこともあるので、資材と時間を節約するためには、価格を下げるためには、慎重かつ高いレベルの技術が必要です。そこが作り手としての挑戦なのです。
時間と手間がかかるから高いんだというのは芸術家には許されるかもしれませんが、職人や技術者にとっては要領が悪くて下手くそだと思われてしまう可能性があります。「手間暇がかかる(から高い)」という宣伝文句を使う人も結構いますが、私にはあまり宣伝になっていない気がします。最終的に使う人が満足すれば良いので、手間暇がかかっていることを喜ぶ人もいるでしょうかからそれでも良いのかもしれませんが、作り手の目からは「随分利益を乗せてるな」と見えたり「何やら希少で高度な技術が使われているのかな?」と見えたりと色々です。
先日、とあるテレビ番組制作会社から問い合わせがあって、芸能人がモノづくりに挑戦する番組の企画で木製ロードバイクを作るテーマがあるので協力して欲しいとの話がありましたが、短時間で組み立てできるような安易なものではない旨を理解していただけるよう価格や工数を説明しました。一日で撮影が終わるようにとのことだったので、随分無茶な話だなと思いました。
大抵の場合はやってみると価格の高さの理由がわかりますし、高品質で安価(適価)なものを作ることの難しさも実感します。