— ChatGPTを用いた「自己決定型Webアプリ教材」の開発 —
著者: 椿 一生(ZIKUU/モノづくり塾)
協働モデル: ChatGPT(GPT-5)
作成日: 2025年10月16日
掲載予定: ZIKUU教育研究レポート
URL: https://zikuu.space/monologue/3866/
要旨(Abstract)
本研究では、AIとの協働を前提とした新しい学習モデルとして、学習者自身が「何を作るか」を決定し、ChatGPTを活用しながらWebアプリを構築する自律学習型教材を設計・実装した。従来の教材が提示する「模倣型」課題とは異なり、本教材は課題設定・判断・構築の一連のプロセスを学習の中心に据える。教材には、ChatGPTへの質問設計支援、迷子防止設計、自己評価チェックリストなどの要素を組み込み、学習者がAIと協働しながら創意的に学ぶ環境を整備した。本稿では、教育工学的視点から本教材の設計理念・構成・学習支援・評価モデルを整理し、AI時代の学習デザインとしての意義を考察する。
1. 序論(Introduction)
AIが計算・文章生成・分析を代替可能にした現在、人間の役割は「考える」「判断する」「決める」側へと移行しつつある。
にもかかわらず、多くの初学者教材は依然として「決められた課題を写経する」構造にとどまり、AIを活用する主体性を育てる設計にはなっていない。
本研究では、AIと人間の協働関係を教育設計の中核に据え、
学習者が自ら課題を定義し、AIと共に学びを形成していく教材モデルの構築を試みた。
この教材は、ZIKUUが提唱する「二刀流(アナログ×デジタル)」「高文脈文化」哲学を基盤とし、
学習者が自分の目的・美意識・価値観を反映させながら学ぶ“文化的学習設計”を目指している。
2. 方法(Methodology)
2.1 教育設計理論の参照枠
本教材は以下の理論的基盤を参照した。
教育理論 | 教材設計上の対応 |
---|---|
自己決定理論(Deci & Ryan) | 学習者がテーマ・課題を自ら選定する自由を保証 |
メタ認知学習 | ChatGPTへの質問設計を通じて思考の可視化を促進 |
問題基盤型学習(PBL) | 自分で課題を設定し、AIを協働相手として解決を進める |
社会構成主義 | 成果物をGitHub Pages上で共有し、他者との比較・交流を通じて学ぶ |
反転学習モデル | 教材が知識の提示を最小化し、実践と省察を主体に置く |
2.2 学習目標
- 知識領域: HTML/CSS/JavaScript基礎、GitHub操作、AI活用法の理解
- 能力領域:
- 課題設定力
- AI対話設計力
- 判断力・選択力
- 発信力
2.3 実施環境
- 学習対象:高校生~社会人初学者
- 環境:GitHub Pages, ChatGPT(GPT-4/5), ブラウザのみ
- サポート:ZIKUU Discord/Wiki.js Q&A
3. 教材設計(Design)
3.1 教材構成
教材は次の章立てで構成される。
Chapter 0 導入:AI時代の学びとは何か
Chapter 1 環境構築:GitHubアカウントとPagesの準備
Chapter 2 対話の設計:ChatGPTにどう聞くか
Chapter 3 UIとコードの形成:自分で決めて作る
Chapter 4 公開・共有:Webで発表する
Appendix 模範対話・詰まり方と対処集
3.2 学習導線
- 決める(課題設定)
- 聞く(AI対話)
- 試す(実装・検証)
- 直す(反復学習)
- 発表する(共有・省察)
3.3 学習支援設計
支援要素 | 内容 |
---|---|
ガイドライン | ChatGPTへの質問例・回答例を提示 |
迷子防止策 | 「困った時に聞く手順」を教材内に埋め込み |
自己評価 | チェックリストを設け、進捗と理解を可視化 |
外部支援 | Discordでのスタッフ支援・仲間交流を想定 |
省察設計 | 「ふりかえりノート」テンプレートで思考を再構成 |
4. 評価と分析(Evaluation)
4.1 評価モデル
観点 | 指標 |
---|---|
自律性 | テーマを自ら設定し進行できたか |
問題解決力 | AI提案を分析・改良して成果を得たか |
協働性 | 他者との共有・比較・対話が行われたか |
反省性 | 学習ログを基に自己省察を行ったか |
4.2 初期実践の所見
ZIKUU塾での初期実践では、参加者の多くが「最初の一歩が難しいが、AIとの会話で方向が見えた」と回答している。
固定課題型教材と比較して、学習者の意欲・創意の多様性が顕著に表れた。
特に「ChatGPTに質問する技術」そのものが、学びの中心に浮上した点は注目に値する。
5. 考察(Discussion)
5.1 AI時代の学びの転換
AIの支援を前提とした学習環境では、「正解を得る」ことよりも「問いを立てる」ことが価値を持つ。
本教材は、AIを“答えを出す装置”ではなく、“共に考える相手”として扱う設計により、
学習者の思考様式を「受動」から「能動」「対話的」へと移行させる役割を果たした。
5.2 教師の役割変化
教師は知識の伝達者から、AI協働学習のファシリテーターへと変化する必要がある。
本教材は、教師が「全員を同じゴールへ導く」従来型モデルから、
「それぞれが異なるゴールへ進む多様性の管理」へと移行する設計を支援する。
5.3 ZIKUU哲学との整合
この教材は「挑戦と失敗を歓迎する」「違いを尊重する」というまほら憲章に沿っており、
AIを通して人間的な判断・関係性・文化的表現を学ぶ“高文脈的教育”の一形態である。
6. 結論(Conclusion)
本研究は、ChatGPTを活用した自律的・構築的学習モデルとして、
学習者が「AIと共に考え、判断し、形にする」教材設計の実例を示した。
本教材の特長は以下に要約される。
- 課題設定を出発点とする自由度の高い学習構造
- AIとの対話を学習設計に組み込む教育デザイン
- 学習者の判断・省察を中心に置く評価モデル
今後の展開として、学習ログ・ChatGPT対話履歴の分析を通じて、
「AI対話力(AI Literacy)」の定量化・可視化を進め、
AI時代の教育工学における新しい指標の確立を目指す。
参考文献(References)
- Deci, E. L., & Ryan, R. M. (1985). Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior. Springer.
- Barrows, H. S. (1996). Problem-Based Learning in Medicine and Beyond. Springer.
- Vygotsky, L. S. (1978). Mind in Society: The Development of Higher Psychological Processes. Harvard University Press.
- 椿 一生 (2025). 「AI協働と自己決定的学習の可能性」 ZIKUU教育研究報告
- OpenAI (2025). GPT-5 System Overview and Pedagogical Applications.
「AI協働による自律学習型プログラミング教材の設計と実践」への1件のフィードバック