Vibeモデル および Vibe Playground 技術白書

概要

本白書は、場が持つ抽象的な“雰囲気(Vibe)”を、計算機が扱える形式に圧縮し、
人間が視覚的に理解しやすい形で生成出力する枠組みを提案するものである。

省察・研究・評価の対象となるのは以下の3層である:

  1. 抽象的概念(雰囲気)をどのようにパラメトリック化するか
  2. そのパラメータをどのようにテキストプロンプトへ写像するか
  3. テキスト→画像生成モデルは、それをどの程度視覚的に反映可能か

これら3層は、AIの研究領域としても興味深い課題である。

1. 序論:雰囲気はなぜ扱いにくい概念なのか

“雰囲気(Vibe)”とは、知覚心理学・社会学・哲学などで扱われる複雑な概念である。

特性:

  1. 非局所性(Non-locality)
    → 物体単体ではなく、空間全体・人間・活動・期待・文脈が絡む。
  2. 中庸性(Ambiguity)
    → 明確な境界がなく、あいまいな概念の重ね合わせ。
  3. 同時性(Simultaneity)
    → 複数の要因が同時に影響を及ぼす。
    例:人数は少ないが動きは激しい、静かだが重苦しい、など。
  4. 非言語性(Non-verbal nature)
    → 多くは直接言語化が難しい。

これらの理由から、雰囲気の形式化は伝統的には難しいとされてきた。

本研究では、雰囲気をあえて低次元パラメータに縮約(dimensional reduction)することで、
“扱える抽象概念”として位置づける。

これは以下の工学的意義を持つ:

  • 計算処理が容易
  • UI 操作性が高い
  • 解釈可能性(Explainability)が担保される
  • モデル入力として安定する

2. Vibe-mini 設計哲学:なぜ5パラメータなのか

Vibe-mini は以下の設計原則から構築されている。

2.1 抽象化の原理(Principle of Abstraction)

雰囲気は多数の因子から構成されるが、
「雰囲気を変えるとき最初に触るもの」は限られる。

例:

  • 人の多さ
  • 音量
  • 出入りの多さ
  • 感情的空気(軽い/重い)

これらは人間が一番最初に把握する“要素的指標”である。

2.2 画像生成モデルの特性から逆算

Stable Diffusion は複雑な指示を与えても反映しない場合がある。
したがって、

画像生成モデルが視覚的に反映しやすい軸を選ぶ必要がある。

Stable Diffusion が得意なのは:

  • 人数
  • 活動量
  • 光の明るさ
  • 空間のざわつき感
  • 構図の「密度」

つまり Vibe-mini の選定は、
「実際に画像生成側が変化を受け取りやすい軸」を優先している。

2.3 離散化の理由

連続値にすると以下の問題が起きる:

  • UI が煩雑になる
  • 人間の直感的理解が損なわれる
  • 画像生成側の揺らぎを吸収できない

離散値(0〜3 / -1〜1)は、
人間とモデルの“両者にとっての最適領域”に位置付けられる。

3. プロンプト生成アルゴリズム(LLM)

Vibe-mini をテキストプロンプトへ変換する方法は2種類ある。

3.1 テンプレート型(Rule-based)

メリット:安定・再現性が高い
デメリット:多様表現に欠ける

生成例:

A workshop with {people} people, {sound_type} sounds at {sound_level} volume, {flow_desc}, with a {valence_desc} atmosphere.

3.2 LLM 型

メリット:文脈表現が豊か、画像の質が高い可能性
デメリット:揺らぎがある、過剰な脚色が起きる可能性

システムプロンプト例:

「あなたは画像生成プロンプト生成エージェントです。
入力された Vibe-mini の値をもとに、工房らしい情景を1行の英語で記述しなさい。
余計な説明は書かず、カメラ視点を含める必要はありません。」

3.3 プロンプト生成の技術的ポイント

  • Workshop / studio / craft tools など、空間固定語彙を必ず含める
  • 雰囲気を明るい/重いで表す場合は 形容詞の選択が重要
  • 人数は “several workers”, “a few people”, “crowded” など
  • flow は “frequent movement”, “calm movement” など視覚語彙で表現

4. Stable Diffusion における“雰囲気反映”の技術的検討

Stable Diffusion では以下の要因が“雰囲気”に影響を与える。

4.1 主要要因

  1. 人物数(people_level)→最も反映されやすい
  2. 光の量(実際は valence の副作用で変化)
  3. 背景の密度(clutter, tools, machinery)
  4. カラーパレットの傾き(valence が効く)

4.2 反映されにくい要因

  • 動き(motion blur を要求しない限り)
  • 匂い
  • 人間関係の雰囲気

これらは「視覚的トリガー」が弱いため、
プロンプトで強調しても反応しにくい。

4.3 画像生成の揺らぎについて

Stable Diffusion はランダムノイズを初期条件として扱うため、
同一プロンプトでも毎回異なる。

雰囲気を扱う上では、
揺らぎはむしろ自然な“確率的揺れ”として扱うことができる。

5. 評価実験の詳細

5.1 実験設計

変数

Vibe-mini 5要素を独立に変動させて比較。

条件
  • サンプルは各設定ごとに 5 枚生成
  • 画像生成モデル:Stable Diffusion 1.5 / SDXL
  • Prompt Generator:LLM(GPT-4 or local LLM)

5.2 観察項目

  1. 人物数の変化
  2. 背景の密度変化
  3. 光・彩度の変化
  4. 機械/工具の描出頻度
  5. “表情としての雰囲気”の読み取り可能性

5.3 結果の例

(1)人物密度の変化

最も再現性が高い
→ SDXL では密度表現が明瞭に変化

(2)音量の変化

視覚化は直接的ではない
→ ただし “machine” を加えると道具・工具の量が増える

(3)動き(flow)

適度に反映される
→ “busy workshop” のように表現が変わり、雑然感が増す

(4)vibe_valence

確かな変化がある
→ “light/friendly” は明るい構図
→ “tense/quiet” は暗めの色調になりやすい

6. 総合考察

Vibe-mini は、
少数パラメータでも雰囲気の“方向性”を操れる
ことを確認した。

ポイント:

  1. 画像生成モデルにとって扱いやすい次元を選んでいること
  2. パラメータの意味が人間とモデルの両者で整合的であること
  3. 雰囲気変化の“グラデーション”を作れること
  4. UI と論理モデルが噛み合っていること

7. 今後の発展(ロードマップ)

7.1 工房以外の空間への適用

  • オフィス
  • レストラン
  • 工場
  • 都市の街角
  • 住宅空間

→ パラメータの小拡張で適用可能。

7.2 センサー融合型 Vibe Estimator

カメラ、マイク、温湿度センサーなどから
Vibe-mini を自動推定する。

構成案:

センサー入力 → Feature Extractor → Vibe Estimator → Vibe-mini

Vibe Estimatorは
CNN / Audio Embedding / Transformer などで構築。

7.3 Multi-modal Vibe Model(MV-Model)

最終形は以下の統合システム:

Vibe ↔ Text ↔ Image ↔ Sound ↔ Behavior

空間理解を多次元にすることで、

  • 防災
  • 工場の異常検出
  • 教育・訓練
  • 音響デザイン
  • 建築・内装シミュレーション

等に応用できる。

7.4 Vibe Large Model(VLM)構想

最終形態の構造:

多次元センサー
 ↓
Vibe Encoder(VLM)
 ↓
Scene Generator(画像・音・3D)

“場の空気”を学習データとして扱う
世界初の雰囲気モデルも視野にある。

8. 結論

本研究・本システムは、
“曖昧な雰囲気”という概念を、工学的に扱いうる枠組みへと引き下ろす
最小で、かつ実用的な技術基盤となることが確認する試みである。

  • Vibe-mini(5軸)は変化を把握するには機能する
  • LLMプロンプト生成との相性が良い
  • 画像生成側の変化も有意に観察できる
  • 拡張可能性が高い
  • 実際の作業空間を対象としても応用可能

技術的にも研究的にも、
“雰囲気の計算モデル化”という未踏分野への
基礎貢献になり得る。

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