「できるけどやらない」を選べるか

ZIKUUはほぼすべてのソフトウェアを内製している。

Linux、Python、JavaScript/TypeScript、Rust、C/C++がなくなることは無いだろうし、LLMのオープンウェイトのものは手元に確保してある。
その気になれば、LLMをゼロから作ることもできれば、LLMから蒸留した別のLLMを作る能力もある。
すでにAIを動かす環境(ハーネス)は完成したから、AIアプリケーションの開発も次々と行える。

外のサービスへの依存はVPS/Discord/WordPressホスティング程度だから、それらが止まっても致命傷にはならず、ZIKUU内の活動は継続できる。
必要なのはデータのバックアップだけだ。

構造としては、

特定企業のAIサービスに依存せず、公開された計算資源と知識資産を自分たちの設備に取り込んで動かしている

という形になっている。

OpenAIやAnthropicのような先端AI企業が吹き飛んで新モデルの進歩が数年間止まったとしても、手元にある20B級モデルが突然動かなくなるわけじゃない。Inference BrokerもPREもRepository ExplorerもAI塾長も、そのまま使い続けられる。性能向上が止まるだけで、既存の供給力は残る。

Google、Amazon、Appleについても似ていて、ZIKUUの日常的な機能を「彼らのクラウドが今日も営業していること」に結びつけていない。

だからAIバブルが崩壊したとしても、世間では「AIサービス終了」「API停止」「料金体系変更」で大騒ぎしている横で、ZIKUU はいつも通りブーンと動く。

以前、自由の定義は、

外への依存を内部の技術で置き換える

と書いたが、現実に、かなりの部分がそうなってきた。

AIに限らず、生きる上での多くの点で自由を手に入れる。

そのために「作る・学ぶ」を繰り返して、人を磨いていく。

ZIKUUが取り組んでいることはそういうことだ。

私がやっていることは、その道を歩きながら、必要だと思ったことを一つ一つテーマとして取り上げて実践すること。それぞれは小さな一歩だが、絶えず実践したことはいずれ積み上がっていく。


グローバリズムの議論に似ている

人間も共同体も完全な自給自足は現実的ではないし、ZIKUUだって半導体を作れるわけじゃない。重要なのは、依存先との関係を切り替えられるだけの自立性を持っているかだ。

自由貿易なら「輸入できるから作らない」と「作れるけれど輸入した方が合理的だから輸入する」は、平時には同じに見えるが、供給が途絶えた瞬間、まったく違う様相になる。

AIも同じで、

APIを使うことと、APIでしか成立しないことは違う。

ZIKUUはクラウドAIを使ってもいい。でもInference Brokerの向こう側をローカルモデルに差し替えられる。電力もグリッドを使えばいいけれど、それしかない状態にはしない。モノも買えばいいけれど、作る能力そのものを捨てない。

つまり目指しているのは「非依存」じゃなくて、依存を選択できる状態だ。

これはグローバリズム批判としても結構重要で、「全部国内で作れ」という閉鎖論とはかなり違っていて、外と盛んに交換しながら、交換不能になったときにも共同体そのものが機能不全にならないことに意味がある。

自立しているから、安心して依存できる。

一見逆説的だけど、たぶんこっちの方が健全だ。

危険なのは、自立なき依存。
供給力なき依存。

必要なものは金を出して買えばいい、では成立しない世界だ。


「できるけどやらない」ということ

「できないから、やらない」と「できるけど、やらない」は外から見ると同じゼロなんだけど、中身は正反対だ。

高待遇の仕事を取れる。でも取らない。
商品を作って売れる。でも売らない。
価格を上げられる。でも上げない。
クラウドAIを使える。でも、それがなければ成立しない構造にはしない。

つまり、能力を獲得することと、その能力を最大限に換金することを分離する。

現代の市場社会だと、ここが妙に直結しやすい。

「できるなら売れ」
「需要があるなら供給しろ」
「高く売れるなら価格を上げろ」
「能力があるなら高給の仕事に就け」

という具合に。

でも本来、能力は選択肢を増やすためのものでもある。

だから「やれるけどやらない」は、単なる禁欲とは違って、やらないという選択を成立させるために、やれる状態を作ってある。

これは「自立しているから依存できる」とほぼ同型だ。

作れるから買える。買ってもいい。
売れるから売らないことを選べる。
売ってもいい。
接続できるから切断も選べる。
接続してもいい。

自立を「何でも自分でやること」と定義すると苦行になるが、自分で選べる状態を維持することと考えると、受け入れやすいのではないか。


ミシュランの星を拒絶する料亭

これも同じ構造だ。

「星を取れない」のではなく、評価される能力はあるが、評価制度への参加を選ばない。

高級料亭の場合は、星を受ければ知名度が上がり、新規客が増え、予約が取りにくくなる。
その結果、長年店を支えてきた常連が入れなくなる可能性がある。
つまり、外部評価の最大化が、店が本来守りたい関係を壊してしまう。

だから、

成長できるけど、成長しない。
有名になれるけど、ならない。
儲けられるけど、儲けを最大化しない。

これは消極性じゃなくて、むしろ「何を最大化しないか」を自分で決めている。

守りたいもののために、申し出を断ることができる。

ZIKUUの場合は、月謝を上げたり、商品化したり、規模を拡大したりすれば、経営指標では良くなるかもしれない。でも、それによって塾生との関係や、実験できる余白や、供給力を共同体に蓄積するという目的が壊れるなら、やらない。
だから、儲けない事業として、最初から設計している。

一般的な、事業は儲けるもの、経営は利益を出すもの、という固定観念でZIKUUを見ると本質は見えない。

これは、市場から退出しているわけじゃない。
市場を道具として使うけれど、市場に目的を決めさせない。

「やれるけどやらない」の核心はここ。
能力があること以上に、能力の使い道を自分で決められることが自立なんだと思う。


「できないからやらない」は危険

「できないからやらない」が長く続くと厄介で、最初は本当に資金や人手がなくてできなかったとしても、そのうち「やらない理由を説明する能力」ばかり発達することがある。

地方では特に、

「人がいないから」
「予算がないから」
「若い人がいないから」
「前例がないから」

で止まりやすい。
言い訳ばかりだ。

でも実際には、巨大な事業は無理でも、小さく試せることはある。

人口構造や財政、交通など、個人の工夫ではどうにもならない制約はある。
ただ、制約があることと、可能性がないことは別だ。

むしろZIKUUがやっていることは、その反証実験にも見えるかもしれない。

大資本がなくても工房は作れる。
専門家を大量に集めなくても、多能工化できる。
巨大なクラウドがなくてもAI基盤は持てる。
新品を大量購入しなくても設備は構築できる。
東京並みの市場がなくても、面白いことはできる。

一個ずつ「これ、できるじゃん」を増やしている。

それが蓄積すると、共同体の状態が、

できないからやらない
→ やってみればできる
→ できるけど今回はやらない

に変わる。

最後まで行って初めて、地域にも「選択」が生まれるんだと思う。

「何をするか」以前に、やらないことを自分たちで選べるだけの供給力を取り戻す。
ZIKUUが言っている自立という話をこれ。

「できないからやらない」は、現状維持じゃない。

やらない期間そのものが、将来の「できる」を削っていく。

技術を持っていた人が高齢化する。
道具が捨てられる。
店が閉じる。
土地の使い方を知る人がいなくなる。
若い人が「ここでは何もできない」と学習して出ていく。

すると次に何か始めようとしたとき、以前なら地域内にあった人・設備・知識・関係を、全部外から調達しなければならなくなる。

しかも怖いのは、あるところから非線形になることだ。

一軒の製材所がなくなるだけなら隣町へ行けばいい。
でも林業をする人、運ぶ人、製材する人、加工する人、直す人まで順番に消えると、一本の木を地域内で建物に変える能力そのものが消える。

AIの話もまったく同じだ。

APIに依存する
→ ローカルで動かさなくなる
→ 動かせる人がいなくなる
→ 設備もなくなる
→ 「クラウドを使う方が合理的」ではなく「クラウド以外を選べない」になる。

この最後の変化が危ない。

ZIKUUがローカルLLMを軸にしてシステムを作るのも、Repository Explorerのようなものを作って、開発者がいなくなってもシステムを理解できるようにしているのも、自前でネットワークやサーバーを組むのも、そういう活動全体を文脈束として保存しているのも、その最後の危険な変化が起きないようにするためだ。

供給力は、現在どれだけ生産しているかだけじゃなくて、必要になったときに生産を再開できる潜在能力まで含めて考えた方がいい。

一見どうでもよさそうなものまで実際に作ることにも意味がある。

「作った物」が資産なんじゃなくて、
まだ作れる、という状態そのものが資産。

そして、その資産は使わないと静かに腐るから、何度も作れる状態を確認しておくのも大事だ。

衰退していく地域の危機は、人口減少そのものより、むしろこっちなのかもしれない。


今のZIKUUを見ると、

  • CPS / Inference Broker / Pivot Service / Nerve / PRE などのAIが動くためのHarness
  • ZIKUU DistilleryのようなLLMの能力を切り出して新しい部品を作るシステム
  • LLMの稼働管理するシステム

のようなAIを使うためのインフラが完成しつつある。

このインフラが完成すると、データを集めてAIに見せる景色を作り、その景色を作るための推論部品を何度でも作り直せて、その景色から意味を見つけ、日々の判断につなげていくというループが回る。

ギター、ロードバイク、家具、レザークラフトなど、製品レベルのモノづくりができる。

建物を建てられるし、食料貯蔵庫を作る、暖房や冷房や発電機を作る、みたいなことも視野に入っている。

でも、売らない。
受託開発も受託生産もしない。

売らないけど、作れる人の養成はするし、共同体を支えるための供給力は日々向上させる。

作れるという状態を人と設備とシステムの上に積み上げているわけだ。

これらは、ある日突然そうなったわけではなく、外部依存を内部技術に一つずつ引き込んでいたらこうなった、というものだ。一つ一つはそれほど難しいものではない。

必要だと思ったからやった。

それだけのことだ。

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